欧州で1960年代を代表する革新的なスポーツカーといえば、ポルシェ911と今回紹介するジャガーEタイプの2台が筆頭です。特にEタイプは先進的な美しいスタイリングはもちろん、レーシングカー直系の優れたパッケージ、ネーミング&価格を含めた戦略的なマーケットを見れば、ヒットすることが目に見えて明らかでした。
特に240km/hのトップスピードは、レーシングカーを除けばライバルを大きく凌駕するものでした。それでいて、フェラーリやアストン・マーチンの半額で購入できるとあれば、多くのスポーツカーファンが殺到したのも無理もありません。創設者であるエンツォ・フェラーリでさえ欲しがった、という逸話があるほど魅力に溢れたクルマでした。
Eタイプは1961年から1975年まで14年間に渡って生産されています。主にメインマーケットであるアメリカ市場からの要求に対する形でたびたびマイナーチェンジが行われ、一般的にはシリーズ1、シリーズ2、シリーズ3という3タイプに区別されています(シリーズ1にはアメリカ保安基準に対応した仕様もあり、シリーズ2と酷似する部分が多いため、マニアの間ではシリーズ1.5と呼ばれるモデルも存在)。マーケットでは、最も美しいのが架装の少ないシリーズ1、日常使いもこなしたいならば熟成のシリーズ3と言われることが多いです。
デビュー当初はフィックス・ヘッド・クーペ(FHC)の2シーターとオープン2シーター(OTS)の2車型でしたが、66年後半には2+2が追加されました。シリーズ3ではクーペが廃止となり、オープン2シーターのボディが2+2ベースに変更となっています。車体は当時としては画期的なセミモノコック+スペースフレーム構造を採用し、軽量化と高剛性の両立を果たしていました。ミッションは発売当時は4速MTのみでしたが、途中から3速ATもラインアップに加わっています。
エンジンは3.8リットル直列6気筒DOHCからスタートし、当時の排ガス対策によるパフォーマンス低下を抑えるため、1964年には4.2リットルに排気量を拡大、1971年のシリーズ3では新開発の5.3リットルV型12気筒SOHCを搭載するに至っています。
シンプルな美しさが自慢であったエクステリアは、シリーズ1.5以降バンパーやコンビネーションランプが大型化され、シリーズ3になるとさらにメッキグリルの追加、大型のオーバーライダーが装着されるなど、徐々に迫力と豪華さを兼ね備えることとなります。また、パワーステアリングなど装備の充実が図られ、シートの改良などで快適性を高めるなど、年数の経過とともに高性能グランドツーリングカーの色を強めていきました。ちなみに、車両重量は初期型では1200㎏中盤でしたが、最終型では1500㎏強(いずれもオープン2シーター)にまで増加、V型12気筒を搭載による重量配分の悪化からもスポーツ度が薄まっていることは明らかでした。
スポーツカーとして、旧態化が露呈し始めたEタイプは2+2が1973年に、オープン2シーターが1975年に製造中止となり、後継であるXJ-Sにバトンを繋ぐこととなります。
山崎真一の、この個体ここに注目! |
当時の正規ディーラーである新東和モータースから1972年に販売された由緒正しきEタイプ・シリーズ3です。この個体は3オーナー車でいずれも車庫保管、色褪せしやすい濃赤(インペリアル・マルーン)ですが、美しい色艶をキープしています。前オーナーは無類のジャガーフェチで、シリーズ3のほかに3台を所有されていました(今後、本誌に登場する可能性あり?)。このクルマで、奥様とクラシックラリーを楽しんでいた(ボンネットやトランクに参加ステッカー)のですが、病気で泣く泣く手放すことにしたそうです。
驚くべきは前オーナーが行った整備履歴です。購入した7年前にダッシュボード/ステアリング/ガラス類/ソフトトップを新品に交換、シートやサイドシル、フロアカーペットなどの内装材もすべて張り替えています。さらに5年前にはクラシックラリーで路肩に乗り上げて、フロントフレームに少し歪みが出たことをきっかけにスペースフレームの総入れ替えを慣行し、同時にトーションバーを含めて全サスペンションを交換しています。その他、シリンダーヘッドのO/H、前後のモール類、コンビネーションランプの新品交換など、定期的なメンテナンスのほかに、これまで総額1200万円以上をかけてリフレッシュされてきました。
エンジンの一発始動はもちろん、ミッションを入れたときのショックもなく、少し触っただけでも程度の良さが伝わってきます。また、全体にキレイですが、各部に適度な使用感(下回りのゴム類の変形、小さな飛び石跡など)もあり、キチンと乗ってこられてきた個体であることもポイントは高いです。ここまで素晴らしいコンディションのEタイプ・シリーズ3に今後出会う確率は限りなく低いと断言できます。
ただ前述したとおり、前オーナーはクラシックラリーに参加してしたこともあり、助手席グローブボックスにはカーナビとラリーコンピュータがマウントされています。さらには、後付けのパワーウィンドウ&3点式シートベルトを装着されるなど、オリジナルよりもイベント参加時の使い勝手を優先したモディファイが施されていました。もちろん、スタンダードな状態に戻すことも可能(別途費用が必要)ですが、個人的には趣味として眺めて楽しむのならともかく、定期的に乗って楽しもうと考えているとしたら、快適性や安全面の部分なので残しておいてもいいかな、と思ったります。戻すのは走りを存分に堪能してからでも遅くないのですから…。
購入後、トラブルの心配も少なく、すぐに走り出すことができる安心感を考えるとこの価格は決して高くありません。非オリジナルを色眼鏡で見ないで、モノの本質を見極められるクラシックカー愛好家に手にしていただきたいものです。
年式 | 1972年 |
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初年度 | 1972年12月 |
排気量 | 5,343cc |
走行距離 | 54,140km |
ミッション | 3AT |
ハンドル | 左 |
カラー | インペリアル・マルーン |
シャーシーNo | 1S20989BW |
エンジンNo | |
車検 | なし |
出品地域 | 大阪府 |
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