戦前からマセラティを支配していたオルシ家がシトロエンに株式を移譲したのは、名車ギブリ(初代)が誕生した一年後のことでした。
マセラティを傘下としたシトロエンはフラグシップモデルSM用として新たにモデナで開発されたV6エンジンを獲得します。
一方、シトロエン傘下に入って開発資金を得たマセラティが新たに送りだしたのがブランド初のミドシップロードカー、ボーラ(71年のジュネーブショーにてデビュー)でした。スタイリストは独立してイタルデザインを立ち上げたばかりのジョルジェット・ジウジアーロ。
ボーラ=高価なグランツーリズモの存在はイタリアンブランドのアイコンとしては有効でしたけれども数は出ません。つまりは儲からない。そこでマセラティが目をつけたのがポルシェ911に代表される2+2シーターのスポーツカーマーケットでした。ボーラのスタイリングをほぼそのままにシトロエンSM用として開発したV6エンジンを3リッターにスープアップしてミドに搭載。ジウジアーロがリデザインし、マイナス2気筒分のスペースを活用して+2シートとしたメラクを72年秋のパリショーで発表したのです。
語源は「アル・マラック・アル・トゥブ・アル・アクバル」(おおぐま座の星名)のマラック=メラクで、アラビア語で腰を意味する単語なのだそう。マセラティの車名といえば風の名に由来したものですが、自身の風では吹き払えそうにない苦境を期待の新星で照らし出したかったのでしょう。
しかし不運が再びマセラティに、否、イタリアン高級ブランドの全てに襲いかかります。オイルショックです。これにより親会社のシトロエンがあえなく破綻。プジョーに吸収されてしまいます。シトロエンはマセラティを手放すことになり、75年に同じイタリアのデ・トマソへ委ねられることになりました。とはいえ結局シトロエン時代に開発されたモデルのなかで80年代を迎えることができたのはメラクだけ(ボーラは78年で終了)でしたから、輝く星の役割を最低限に果たした、とも言えるでしょう。
モデルイヤー82年(生産は83年)で生産を終えるまでエンジン仕様の違いから三種類のモデルを世に送り出しています。75年まで生産された190馬力のメラク(シトロエン時代)、76〜83年まで作られた220馬力のメラクSS、そしてイタリア国内市場向けとして77年以降に設定されたメラクGT(2000)です。これらを見分ける方法としてはグレード名の入ったエンブレムのほかに、ヘッドライト間のグリルが黒くメッキバンパー仕様がメラクSS、マットブラックバンパーでサイドラインにも黒いストライプが入っている仕様がメラクGT、そしてヘッドライト間にグリルのない仕様がシトロエン時代メラクです。
ダッシュボードデザインにも三種類あります。シトロエン時代メラクはSMと全く同じデザインのラウンドシェイプでワンアームハンドル、見た目にも大変ラグジュアリィな仕様でした。メラクSSやGTになるとマセラティデザインの水平基調ダッシュボードに丸いメーターが入り、4本スポークのステアリングホイールとなります。そして全ての右ハンドルモデルと76年以降のUS仕様、80年以降のヨーロッパ仕様は兄貴分ボーラと共通デザインで、ドライバーオリエンテッドなデザインに3本スポークとなりました。
シトロエンとの協業によるスーパーカーゆえメラクとメラクSSの初期モデルには悪名高きハイドロシステムを使ったクラッチ&ブレーキシステムが採用されています。デ・トマソ支配となってシトロエンから供給されたパーツがなくなると、漸次マセラティデザインのオリジナル部品へと切り替えられました。
総生産台数は1817台(推定)。メラクが647台、メラクSSが970台、メラクGTが200台と言われています。
メラクの終焉は同時にマセラティのミドシップロードカーの終焉でもありました。現代に至るまで特殊限定モデルのMC12ストラダーレを除きマセラティがミドカーに手を染めることはありませんでしたが、2020年秋に久々のミドカーを発表する予定です。
70年代におけるボーラとメラクは長いマセラティ史のなかでも非常にレアなミドシップロードカーと言えるのです。またスパルタンなピュアスポーツカーでは決してなく、高級GTカーの様相が強くにじみ出ているという点もまた、ミドカーとしては貴重な存在と言えるでしょう。
西川淳の、この個体ここに注目! |
水平基調のダッシュボードデザインと、オリジナル装着だとして3本スポークのステアリングホイールを装備していることから、初期型のメラクSSながら78〜79年あたりの製造でしょうか。
ボディは全塗装されたと思われ、全体的に良好なコンディションを保っていますが、ところどころに小さなひび割れが見受けられました(フロントまわりで15カ所程度)。見たところ欠品パーツもなく、塗装以外はオリジナルの状態をよく保っていると思われます。
インテリアのコンディションも上々です。特に助手席には使用感がほとんどなく、ねっとりとした輝きは新車のよう。比べて運転席にはそれなりにてかりがありました。ステアリングホイールの表面などスレが相応に見受けられます。はやめにリペアを受けたほうがいいでしょう。
ジウジアーロの代表作ともいうべきボーラとメラク。美しいミドシップスタイルは永遠です。
年式 | 1978年 |
---|---|
初年度 | 1978年6月 |
排気量 | 2,965cc |
走行距離 | |
ミッション | 5MT |
ハンドル | 左 |
カラー | 白 |
シャーシーNo | |
エンジンNo | |
車検 | なし |
出品地域 | 群馬県 |
CARZYはコレクタブルカーの個人間売買サービスです。掲載されている車両は売り主さまが所有されており、弊社の管理下にはありません。下記の注意事項をよくご理解の上でご覧くださいませ。