フェラーリがその黎明期に顧客へと販売したモデルは純粋なロードカーではなく、週末にはサーキットでも楽しめるようなトラックユース可能なピュアスポーツカーばかりでした。ところがフェラーリブランドがアメリカ市場で人気を博し始めると、けたたましい音を発する扱いの難しいピュアスポーツカーではなく、もう少し乗りやすくラグジュアリィなGTカーをフェラーリに求める声が高まります。
そうして1960年に生まれたのがフェラーリ250GTEという12気筒のFR4シータークーペでした。事実上このモデルをもってフェラーリの市販ロードカービジネスが始まったと言っていいでしょう。その後、250GTEの系譜は脈々と引き継がれ様々な12気筒の4シーターGT モデルが誕生します。また、これら4シーター12気筒FRは創始者エンツォの愛車になることも多かったのです。つまり、4シーターの12気筒FRクーペはフェラーリの伝統であり正統なモデルの系譜に列なっているというわけです。
70年代に365-400-412シリーズとなりましたが、89年に最終モデルの生産が終わるとしばらく4シーター12気筒GTが不在となります。エンツォが亡くなったのが88年のことでしたから、ほとんどコマンダトーレとともにその寿命も尽きたかに思われました。
もちろん、フェラーリが4シーターモデルを諦めることはありませんでした。むしろ次世代へと乗り継ぐことのできるモダンな性能とスタイリングを与えるべく、当初の計画(412の発展型)を白紙にもどして新たなモデルの開発に取り組んでいたのです。その企画には亡くなる前のエンツォ自身も高い関心を抱いていたと言われています。
こうして92年に発表された新型4シーターGTは新たに456GTと呼ばれることになりました。90年代半ば以降のフェラーリデザインを暗示するスタイリングや、新開発の12気筒エンジンに可変ダンピングのサスペンションシステムを採用するなど、かなりの野心作としてデビューしました。開発にかかったコストも当時としては異例に高額なものだったといいます。
456とは伝統に従って一気筒あたりの排気量を示したもの。×12=5.5リットルV12はF116型と呼ばれ完全に新開発されたエンジンです。その後、このエンジンをベースにいくつかの改良型が生まれています。
発売当初は6速MTのみの設定でしたが、のちに4速オートマチックを組み合わせたGTAが登場。先代(400系)でもATが人気だったため、GTAの引き合いも次第に増えました。今となってはほどよい大きさのボディサイズも当時としては大型な部類に属し、それにも関わらずパフォーマンスはフェラーリ新時代の幕開けにふさわしいものでした。98年に456Mへとマイナーチェンジ(リデザインは奥山清行氏)。2003年までおよそ3300台が生産されました。そのうち1/3がATだと言われています。
過渡期に登場したフラッグシップモデルゆえ新しい技術をたくさん積みこんだ結果、中古車マーケットでは“よく壊れる”との悪い風評がたちましたが、4シーターの実用フェラーリゆえセカンドユーザー以降の整備もままならず、次第にコンディションを崩す個体が多かったことも事実です。筆者は新車の456GTをマラネッロで試乗した経験がありますが、当時の感覚では“目が覚めるほど素晴らしいGT”であったという記憶しかありません。
西川淳の、この個体ここに注目! |
落ち着いたブルールマンのボディカラーに鮮やかなブルーインテリアの95年式456GTです。456というと青系か銀系のボディカラーが似合うというイメージがありますね。この個体などはその典型でしょう。一見して今風のフェラーリではないスタイリングとあいまって、オトナの跳ね馬といった風情です。
現オーナーは6年前に友人からこの456GTを譲り受けました。前オーナーはとにかくよく乗る方で、譲り受けた時点でオドメーターは既に6.5万キロを示していたそうです。それゆえ小さなオイル漏れなどマイナートラブルは多く経験されたものの、決してお金が湯水のように掛かるクルマではなかったと言います。
7.5万キロも走ってきたとは思えない佇まいです。わずかにフロントが下がっているかな、という程度。灯火類やゴム類に驚くほど変色や傷みがなく、ディテールだけ見れば1万キロと言われても不思議じゃない。3万キロと称する456でもっと佇まいの崩れた個体を何台も見てきましたから、ちょっと驚きました。オーナーに理由を聞いてみれば、とにかく雨に濡れた経験がないとのこと。きっちりとガレージ保管すればこれだけコンディションを保つことができるという良いお手本です。ボディ全体を磨きに出せば、きっとさらに見違えるはず。
走行距離が多いため小キズは仕方ありません。ミラーやドア、前後フェンダーなどに目立たないキズが散見されます。ボンネットとリアバンパーはリペイント済み。インテリアも特に運転席側のシートやフロア、ペダル、ハンドブレーキ、スイッチ類には年式と距離相応のヤレとヘタリが見受けられました。特にシートのひび割れが目立ちますが、これも早いうちに内装専門のリペアショップに出せばリアシートと同じくらいの状態には戻るはず。プチレストアもまた楽しみだと思うことが、この手のネオクラシックモデルと気持ちよく付き合うコツでしょう。
何といっても12気筒フロントエンジンの4シーターフェラーリとしては最後の3ペダルMT搭載車です。明確に切られたシフトゲートにレバーを当て、コツンコツンと金属のふれあう音を楽しみながらの変速は、エンジンと確かに繋がっているという感覚があって、最新のフェラーリでは決して味わえません。
半時間ほどドライブを楽しんでみましたが、正規ディーラーと専門ショップでメンテナンスを受けているというだけあって暖まってからのエンジンは快調です。クラッチの切れが多少悪くなっていること、2速ギアの入りが硬いこと、冷間時にミッション用オイルポンプから音鳴りがすること、といった具合に今後手当てが必要だと思われる箇所もありますが、丁寧に乗りさえすれば今のところは特に不都合を感じることはありません。
12気筒を3ペダルで楽しむ。ぜひ一度体験してみてください。
年式 | 1995年 |
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初年度 | 1995年7月 |
排気量 | 5,473cc |
走行距離 | 75,000km |
ミッション | 6MT |
ハンドル | 左 |
カラー | ブルールマン |
シャーシーNo | ZFFSP44JPN0101797 |
エンジンNo | |
車検 | 2020年10月 |
出品地域 | 京都府 |
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