逃したら次はない 貴重なクラシックTVR

2013年に新たなスタートをきったTVRは、3代目となる新しいグリフィスを開発して2017年に発表していますが、いまだデリバリーははじまってないようです。が、クルマそのものの開発はかなり進んでいるようで、ナンバープレートをつけたプロトタイプの街を走るシーンの動画が公開されていて、コスワースがチューンナップした5リッターV8ユニットの快音を聴くことができたりします。1.2トン少々の車体に486psの後輪駆動。TVRらしいクルマになるのだろうな、と期待感は膨らみます。

軽い車体+ビッグパワー+FR──。まさしくそれこそがTVRの方程式ではありますが、実は最初からそうだったわけではありません。創設者であるトレヴァー・ウィルキンソンが最初に手掛けたクルマは、どちらかといえばライトウエイト・スポーツカーの範疇に入るべきモノ。その車体に4.7リッターのV8ユニットを詰め込んだモデルが初代グリフィスであり、それが現在のTVRのイメージの源流といえるでしょう。

ワンオフからはじまり極々少量生産のモデルしか作っていなかった黎明期のTVRエンジニアリングがプロダクションモデルといえるクルマを発表したのは、1958年のこと。その名はグランチュラ。チューブラーフレームにFRP製ボディの組み合わせ、ロングノーズにショートデッキという基本的な成り立ちは、サガリスやT350といったピーター・ウィラー時代末期のモデルが2006年に生産を終えるまで継承され続けたものですが、それはこの時代にはできあがっていたのですね。

グランチュラはおおまかに4つの世代に分けられるのですが、1958〜1960年のMk1と1960〜1961年のMk2の頃のサスペンションは、フォルクスワーゲン・ビートルのパーツをベースにしたトレーリングアームで、対トレッド比でホイールベースが極端に短かったこともあり、俊敏すぎるほど俊敏な操縦性を見せたそうです。

Mk1時代のエンジンはコヴェントリー・クライマックスの1.1リッターと1.2リッター、フォード100E、BMC Bタイプの1.5リッター、そしてMk2時代はコヴェントリー・クライマックスの1.2リッター、フォード・ケント105Eの1リッターと109Eの1.4リッター、BMC Bタイプの1.5リッターと1.6リッターが用意されました。

そして1962年、グランチュラはMk3へと発展します。フロントのグリルがやや高くマウントされてトリム類が変更されるなどフェイスリフトも受けているのですが、最も大きな変更は、やはりホイールベースを50mmほど延長し、サスペンションを新設計のダブルウィッシュボーンへと改め、操縦性の改善を図ったことでしょう。それでも一般的なクルマと較べればかなり俊敏な反応を示したようです。エンジンはBMC Bタイプの1.6リッターと1.8リッターが基本ですが、それ以前のフォードやコヴェントリー・クライマックスを選ぶこともできました。

1964年になると、今度はリアに手が入ります。それまでのリアエンドの中央を落とし込んで左右に穏やかなフィンを持たせたスタイルから、カムテールと呼んでもいいスクエアバック型へと変更され、フォード・コーティナの特徴的なテールランプがマウントされました。後ろ姿のひとつの特徴だったサイドへと回り込んでいくリアガラスがさらに大型化されたこともあって、リアビューの印象はガラリと変わりました。このモデルは1800Sと名づけられました。エンジンはBMC Bタイプの1.8リッターのみです。

そして1965年、グランチュラは生産中止となります。が、経営者がトレヴァー・ウィルキンソンからマーティン・リリーへと変わり、1966年に1800Sが突如Mk4として復活します。僅かに充実したトリム類と容量の増した燃料タンクを備えるところが1800Sとの違い。1967年にエンジンがフォードのケント・ユニット1.6リッターへと代わり、車名がヴィクセンへと変わるまで作られました。

今回ここで紹介するのは、そのMk4。TVRは驚くほど昔の資料が残っていないブランドなので推測混じりではありますが、MG Bと同じBMC Bタイプのエンジンは、取扱説明書には98bhp(=99.4ps)/5400rpmと110Ib.ft(=15.2kgm)/3000rpmと記されているので、ほぼそのまま流用されていると考えていいでしょう。けれど車検証上の車両重量はたった840kg、総重量でも950kg。ライトウエイト・スポーツカーとして充分なパフォーマンスを味わわせてもらえることは簡単に予想がつきますよね。

ちなみに生産台数は、Mk1が約100台、Mk2が約400台、Mk3と1800SとMk4を合わせて約300台といわれていて、うちMk4は78台と推定されています。それらのグランチュラのうち、何台が現存しているのでしょう? 日本には僅か数台しか存在していませんが、Mk4はTVRの集まりの中でも今回の個体以外には確認できていないようです。いずれにしても、凄まじく貴重な1台ということができるでしょう。


嶋田智之の、この個体ここに注目!

この個体は現在のオーナーがイギリスのTVR専門のWEBで探し出し、2004年に日本へと個人輸入したものです。よって日本国内ではワンオーナーですが、イギリスの前オーナーの時代にスペースフレームを組み直すレベルからのレストレーションが行われていて、その作業時の写真もたくさん残されています。日本に来てからのメンテマンスの記録も、ほぼ全て残っています。

クルマが日本に到着してから苦労したのは、熱対策。こうしたクルマの名人と呼ばれる熟練メカニックと試行錯誤しながら、通常の電動ファンにプラスして強制電動ファンや遮熱板などを取り付け、フューエルポンプをエンジンルームからリアに移設するなどして、現在では夏場でも当たり前に走れるようになっています。

また車室内にはほとんど空気が入らず出ていかずで、エンジンルームからの匂いは熱がこもってしまうため、リアのラゲッジの部分にあまり目立たないような空気抜きのメッシュの孔を開けています。ダッシュボードの右下には強制ファンなどのスイッチをマウントするプレートを設置。キーシリンダーの構造上の欠陥でステイごと回ってしまって内側でコードが切れてしまうことがあるため、スターターボタンも同じプレートに新設しています。

安全対策としてハイマウントストップランプを取り付け、Mk1やMk2ほどではないとはいえ機敏な動きを抑えるためにディフューザーを追加しているのが変わったところですが、そうしたパーツの取り付けもごく自然に目立たないようになされている辺りは、メカニック氏のセンスでしょう。

こうして普通に走れる状態になっているグランチュラですが、現オーナーさんはほとんど乗る時間が持てず、ただただガレージ保管をするのみ。それでも定期的なメンテナンスは欠かさず、今では整備と車検のための回送以外にはほとんど走らせていないのだとか。オドメーターが全くあてにならないということで数字はハッキリしないとのことですが、現オーナーさんが走らせたのはどんなに多く見積もっても1万km、おそらく5000km程度なんじゃないか、ということでした。

屋根付きのガレージに入れてるだけあって、クルマはかなり美しい状態を保っているといえるでしょう。FRPボディならではの塗装の微細なクラックは幾つか見受けられますし、右側の前後のフェンダーにごく小さな塗装の剥げを見つけることもできますが、それは目を皿のようにして粗探しをした結果。全体的にはかなり上々の部類だと思います。

目立つ部分を挙げるとしたら、エンジンフードを開けたときに見える右側のインナーフェンダーに割れがあることと、右ドアのインナーにウインドーレギュレーターが干渉する構造であることに起因する傷があることぐらい。いずれもコンクールコンディションにしたいなら充分対策がとれる箇所でしょう。ドアと受けの部分が干渉して塗装が剥げているところもありますが、オリジナルの車体とドアを使ってレストレーションをしてこの状態なので、構造や素材の性質を考えると致し方ないところといえるかも知れません。

タイヤは4本ともほぼ新品。交換してから100kmも走ってないそうです。現在ホイールは8本スポークの14インチですが、オリジナルの15インチのスポークホイールはスペア込みで5本揃っているそうです。スピンナーもつけてくださるそうです。

特筆すべきは、当時モノのオーナーズマニュアルがあること。もちろんそれもレストレーション時の写真も日本に来てからの記録なども、まとめてつけてくださるそうです。

オーナーさんによれば、今が日本に来てから一番調子がよく、当たり前のように乗って出られる状態とのこと。ただでさえ貴重なクラシックTVR、しかも生産台数も少なく日本にはこれ1台かもしれないMk4。状態もかなりいいです。このチャンスを逃したら、二度と巡り会うことはできないかも知れません。

車両スペック

年式1967
初年度2004
排気量1,798cc
走行距離
ミッション4MT
ハンドル
カラーレッド
シャーシーNo10005
エンジンNo67253
車検20217
出品地域東京都
  • レポートは売り主さまへのヒアリングと現車の視認を元に構成されており、必ずしも掲載内容の裏付けが取れている訳ではありません。CARZYは掲載内容の正確性・無謬性を何ら保証しません。
  • 車両の状態を専門的にチェックしているわけではありませんので、何らかの不具合や故障が含まれる場合があります。また取材から日にちが経過することによる状態変化もあり得ます。掲載情報はあくまでも参考情報であることをご理解いただき、購入に際してはご自身の車両状態チェックとご判断を優先ください。
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