“アルファロメオの古いオープンカー”と聞いて最も多くの人がイメージするのは、もしかしたらデュエットではなく、ジュリエッタ・スパイダー/ジュリア・スパイダーのスタイリングなのかも知れません。クラシカルにしてセンシュアル。スレンダーにしてグラマラス。エレガントにしてスポーティ。1950年代に発表されたピニンファリーナ作品の最高傑作のひとつだと感じる人もも少なくないことでしょう。その意見をスッパリと却下することのできる人も、まずいないに違いありません。
ジュリエッタ・スパイダーがデビューしたのは、1954年のことでした。御存知のとおり、第2次世界大戦後に量産車メーカーへと転身したアルファロメオが、それまでの1900シリーズより小柄な量販モデルとして送り出したジュリエッタ・シリーズのオープン版です。最初に登場した2+2のベルリネッタはベルトーネに在籍していたフランコ・スカリオーネのデザイン、次にデビューしたベルリーナは後のアルファロメオのチェントロ・スティーレ(デザイン・センター)に発展するデザインチームが、そしてスパイダーは先述のとおりピニンファリーナがスタイリングを担当しました。
1955年に発表されたスパイダーは、2シーターということもあって、ベルリネッタやベルリーナよりホイールベースを180mm縮めたさらにコンパクトなシャシー。そのうえに、まるでランチアやマセラティであってもおかしくないようなプロポーションを無理なく優美に描いて見せたのですから、デザイナーの力量が解ろうというものです。
搭載エンジンはシリーズ共通の、総アルミ製直列4気筒DOHC1290cc。当初の標準モデルは65pssに過ぎませんでしたが、それでも900kgに満たない軽いボディをスポーティに走らせ、好評を得ることに成功しました。ほどなくしてエンジンは80psへとパワーアップを果たし、評価はさらに高まりました。
その後、1958年にホイールベースを50mm延長して細部にも改良を施し、それまでの750系から101系に進化。1962年にジュリエッタ・ベルリーナの後継として1570ccのジュリアTIがデビューすると、それに合わせてスパイダーにもマイナーチェンジが行われ、同じエンジンを搭載する“ジュリア・スパイダー”へと進化します。エンジンのパワーは、ジュリア・スパイダー時代に高性能モデルとしてラインナップされたヴェローチェとほぼ同じ92ps。僅かに背の高いそのエンジンを収めるためにエンジンフードを僅かに膨らませ、幅の広いエアスクープを設けることになりましたが、逆にいうなら見た目のハッキリした違いはそれくらいのもの。独特の美しさを見せるスタイリングに、大きな変化はありませんでした。
今回こちらで御紹介するのは、スポーツカーとしてのパフォーマンスが引き上げられ、系譜からいうならジュリエッタ・スパイダーの最終進化形となる、ジュリア・スパイダー。生産期間は1964年までと2年足らずで、ジュリエッタ・スパイダーよりも生産台数が大幅に少ない貴重なモデルでもあります。
嶋田智之の、この個体ここに注目! |
このジュリア・スパイダーは1963年式、英国仕様の右ハンドルという珍しい個体です。
現オーナーが購入したのは2017年の6月。当初は完調とはいえなかったということで走行に関わる部分にしっかりと手を入れてから乗りはじめたのだそうです。が、そこからは年に数百kmほどずつ、早朝か夜をメインに渋滞を避け、クルマの調子を保つために走っていたようなもの。感染症の問題で乗るのに気が引けること、クルマが他にも数台あることなどで、手放そうとお考えになったようです。
取材日当日で積算計の数字は93126km。これが実走行かどうかは不明とのこと。普段はタワー式のパーキングで保管されています。
現オーナーの手元にクルマが来てからは、日常的に綺麗に保つことをする以外、内外装のどちらもに手は入れられていません。つまり、購入したショップから出たときの状態。
外装でいうならフロントバンパーの下側とリアバンパーの下側に軽い凹みと塗装の割れがありますが、これも購入当時からのもの。左ドア後方やトランクリッドの左後部などの小傷があったり、トランク内部のバッテリー周辺にクラックが入っていたり、エンジンルームのフードのキャッチ部やバルクヘッド周辺に塗装の割れがあったりもしますが、それらも購入当時からのもの。
内装ではダッシュパネルに細かな塗装のひびや傷があったりメーターに年式なりのくもりがあったりシフトレバーに軽いサビがあったりもしますが、それらも購入当時のもの。
おそらく塗装をしなおしたり部分的に補修がなされてたりする箇所ももしかしたらあるのかも知れませんが、大掛かりな修復を受けた形跡は見当たりません。そのわりにはボディのチリなどにもルーズな感じはありませんし、クルマの姿勢のバランスも良好です。インテリアも、シートを購入時に新品に換えていることもあるのでしょうが、トリム類なども綺麗に保たれていて、かなり良好といえる部類です。重箱の隅をつつくように細かなところを列記しましたが、ノンレストアの個体であるならば、かなりいい状態が保たれているといえるでしょう。また変な改造がいっさいなされていないところも好感度は高いです。エンジンも難なく始動し、吹け上がりも軽く滑らか、シフトの動きも節度があって気持ちよく、機関についても好印象でした。
細かな部分に手を入れていけばさらに美しいコンディションに仕上がるのでしょうが、しばらくは現状のままで充分に楽しめるジュリア・スパイダー、といったところでしょう。ちなみにタイヤはブリヂストン・スニーカーの165/80R15がほぼ綺麗に山を残した状態。購入時に作ったトノーカバーはほぼ未使用のまま。別のところに保管してあるスペアホイールも、もちろんクルマと一緒にお渡しするそうです。
ジュリア・スパイダー/ジュリエッタ・スパイダーは、冒頭でも申し上げましたが、本当に美しい姿をしたモデルです。そうであるがゆえに有名なところでは『ジャッカルの日』『気狂いピエロ』など、日本では『アルプスの若大将』、新しめなところでは『NINE』など、数々の映画に登場してスクリーンを飾っています。
そしてアルファロメオ──だけじゃないですけど──は現在、電動化に向かって舵を切り、新たな未来を作り上げようとしています。もはや快い内燃機関のみのアルファロメオは、生まれてこないかも知れません。
このタイミングで、誰もが美しいと認めるスタイリングを羽織ってアナログ感たっぷりの麗しいツインカム・エンジンを歌わせるというのは、とても幸せなことなんじゃないか? と思えてなりません。
年式 | 1963年 |
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初年度 | 1988年9月 |
排気量 | 1,570cc |
走行距離 | |
ミッション | 5MT |
ハンドル | 右 |
カラー | レッド |
シャーシーNo | AR-383121 |
エンジンNo | |
車検 | 2023年6月 |
出品地域 | 東京都 |
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