ケータハム・セブンの歴史は、1957年に発表された最初のロータス・セブン、いや、コリン・チャプマンが1952年にデビューさせたロータス最初の市販モデル、マーク6を始点としています。まだスポーツカーとレーシングカーの境界線が曖昧だった時代に、サーキットまで自走してレースを楽しんで帰ってくることができる、いわば公道を走れるレーシングカーとして設計された硬派なスポーツカーというのがセブンの真実の姿。走るために必要なもの以外はほとんど何も備わっていないピュアな成り立ちは、クルマを道具やアクセサリーではなく“操縦して楽しむためのもの”と考えるドライビング・ファナティック達に、時を超えて熱心に支持され続けてきました。
セブンの製造権や名称使用権は1973年にケータハム・カーズ社が受け継ぎましたが、それ以降も基本的な成り立ちは変わらず。チューブラーフレームにアルミパネルを貼り付けることでセミモノコック構造とする車体や、フロントミドシップに近いエンジンの搭載位置、余分なモノは極力持たせない軽量設計など、チャプマンの思想は今もハッキリと活きているのです。
ただひとつ異なるのは、かの時代と較べるとパフォーマンスが飛躍的に高くなっていること。ケータハムは時代とともにフレームを強化し、サスペンションにも改良を加え、搭載エンジンもハイパワー化を進めるなど、セブンを進化させ続けてきました。今や545kgの車重に310psのエンジンを積み、静止状態から100km/hに達するまで僅か2.8秒という“ウルトラ”セブンまで誕生しています。
元がそのままサーキット走行をも堪能できるロードカーというコンセプトで生まれたクルマですから、得られる速さが高いことは正義であり、その側面から見るなら紛れもない正常進化。けれど、今日に至るまでの長い歴史の中で、スピードはほどほどでいいからセブン特有の類稀なる“ヒラリ感”を味わい尽くしたい、というファンを無数に生み出してきたのも確かです。そうしたドライバーにとって、ありあまるパワーが生み出す強烈すぎるパフォーマンスは重荷でしかありません。常に幾つかがラインナップされてきたエンジン群の中から、パワーを抑えた仕様をあえて選んだセブン乗り達もたくさん存在しているのです。
そうした穏やかな(?)セブン乗り達にとっての近年最高のプレゼントといえるのが、2014年に販売がスタートした“セブン160”でしょう。“S3”と呼ばれる最も基本的な車体に、日本のスズキ製658cc直列3気筒ターボを80ps/7000rpm、107Nm/3400rpmまでチューンナップして搭載し、5速のマニュアルトランスミッションもリアのライブアクスルもスズキ製を巧みに流用。ケータハム・ジャパンのスタッフが着想して日本のセブンのスペシャリストと一緒にプロトタイプを作ったという経緯もあり、軽自動車枠に収まるようフェンダーがナロウになっています。車重はドライで490kgと恐ろしく軽く、パワーもさほどではないため、他のセブン達よりサスペンションも柔らかめのセットだしタイヤもパッと見で判るぐらいの細身です。
なので、セブンは見た目の印象と違って乗り心地が悪いクルマではありませんが、この160は他のセブン達よりも一段階、いや、二段階ほど乗り心地が良好。ツーリング派にはまさしくピッタリです。それでいてステアリングを切った瞬間に来る“ヒラリ”という動きにしなやかさが加わって、まるでロータスのシリーズ2時代の乗り味を思い起こさせるほどです。
80psに107Nmというアウトプットは普通乗用車の車体に積めば何てこともありませんが、こちらはそうしたクルマ達の半分以下という軽さ。ゆえにスポーツカーとしての走りっぷりに不満などなく、走らせてる間は爽快そのもの。操縦するのが楽しくて仕方ありません。タイヤが細いこともあってその気になれば後輪を遊がせることもたっぷり楽しめますが、基本的なパフォーマンスが現代のスポーツカーとしては手の内に収めやすい領域にあるので、走らせるのに崖っぷちから下を覗き込むような覚悟もいりません。
そのセブン160をベースとした、オリジナル・セブンの生誕60周年を記念したスペシャルモデルが2016年に発表されました。“セブン・スプリント”です。最新型のラインナップには設定のなかったクラムシェル型フェンダー、ルーバーの刻まれないシンプルなエンジンフード、クリーム色のスチールホイール、小振りな丸2灯のテールランプ類、赤いダッシュボードに赤いシート、モトリタのウッドステアリング、クロームがあしらわれたスミス製4連メーター、リアにマウントされるスペアタイヤ……などなど。それこそ1960年代辺り、シリーズ2やシリーズ3の頃のセブンを想わせるクラシカルで繊細なディテールが与えられていました。
生産台数は、世界限定60台。発表当日に完売でした。ここに紹介するのは、その貴重な1/60の個体です。
嶋田智之の、この個体ここに注目! |
60台中の29番というシリアルナンバーを持つこの個体は、取材時の走行が6577kmのワンオーナーもの。オーナーさんは主にワインディングロードを楽しむために走らせていたとのことですが、完調を保つためにエンジン、トランスミッション、デフのオイルは定期的に交換してきてるそうです。
オリジナルのスプリントと異なるのは、オーナーの好みでフェンダーがサイクル型に交換されていること。またタイヤが155/65R14から165/60R14へと変更されていて、それに合わせてサイズ違いの純正アルミホイールに換えられています。サイドミラーはSPAフォーミュラ、ルームミラーはアルミ製のガッチリしたブレのないものに交換。リアの2灯のランプはLEDとされています。それらのノーマルパーツは全て揃っていて、すぐにでもフルオリジナルに戻せる状態です。
後付けされているものは、ETCにドライブレコーダー、そしてUSB電源で、ナビ代わりにするスマホを固定するための取り外し可能なマウントもダッシュボードに付けられていました。
ガレージ保管であり、走行距離が少ないこともあって基本的なコンディションは良好ですが、クラムシェルフェンダーを取り外したあとの穴をふさぐリベットが右側2つ、左側1つ欠品していて、ノーズコーン内部の格子の部分にサビが見受けられました。が、それらはいずれも“セブンあるある”みたいなもので、容易に元に戻すことが可能です。FRP製の左右のリアフェンダーの地面に近いところには跳ね石による小傷が見られますが、それはセブンの宿命といえるものでしょう。
世界限定60台のうちの1台というのは確かに貴重な存在ではありますが、何しろセブンは“走ってナンボ”の代表格。コレクションの1台としてガレージに仕舞い込むより、ヒラリヒラリと軽やかに姿勢を変えていく楽しさを堪能するのが相応しいクルマです。どうしてもついてしまう跳ね石の小傷などは必要以上に気にすることなく、休みの日の早朝にワインディングロードに繰り出してその爽快さを味わい尽くすような、そんなつきあい方をしていただけるとクルマが最も活きるかな、と思います。
年式 | 2018年 |
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初年度 | 2018年1月 |
排気量 | 658cc |
走行距離 | 6,577km |
ミッション | 5MT |
ハンドル | 左 |
カラー | ミスティブルー |
シャーシーNo | SDKRCF3Z217573198 |
エンジンNo | |
車検 | 2021年1月 |
出品地域 | 静岡県 |
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