英国の自動車ブランドは5、60年代に最盛期を迎えたかと思うと、60年代後半には早くも衰退し始めました。その象徴とも言うべき存在が68年に誕生したBL=ブリティッシュ・レイランドという国策会社です。自国の自動車産業を守ろうと英国政府はほぼ全ての自国ブランドを国有化しました。この無謀な政策はものの見事に失敗します。結果的に多くの有名老舗ブランドが他国資本グループに買われてしまったことは承知のとおりで、なかには消滅の憂き目にあったブランドもありました。
ローバーなどはさしずめ後者の代表格でしょう。19世紀に創業した英国で最も由緒のあるブランド名であったにも関わらず、今では派生ブランドのランドローバーやレンジローバーにその名を残しているのみ。一時はBLの後継社となってローバーミニやMGローバーなどである程度の認知を得ましたが、現在ブランド商標権はインドのタタ(ジャガーやランドローバーの所有者)が所有したままとなっています。
さて、英国の自動車産業が華々しかった最後の時代に企画され、その凋落とともに歩んだというべき高級車がローバー2000(後に2200)と同3500です。併せて“P6”と呼ばれています。1963年に登場し、1970年にはシリーズⅡへと進化、77年まで総計30万台以上が生産された高級サルーンシリーズでした。
60年代前半といえばまだまだ英国ブランドたちのハナ息も荒く、自国マーケットのみならず大陸市場や北米市場も意識したコンペティティブな開発競争が行なわれていました。経済発展に伴って人々の生活が向上すると小型モデルでは飽き足らなくなった人々が頃合いの高級車を求め始めます。ローバーはそんな人たちのために大型高級サルーンより求めやすい上級セダンのP6を提案したのです。この頃のローバー社にはまだまだ技術的・経済的な余力があって、前後フードはアルミ製で、お金の掛かったディテールパーツが各所に奢られ、ガスタービンエンジンの搭載を真剣に考えたアシ回りを設計するなど、P6には野心あふれる技術的チャレンジがたくさん散りばめられていました。64年にはこの年始まったばかりのヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いています(2000)。
結局ガスタービン搭載は断念されましたが、代わりにローバーはGMビュイック開発の先進的なアルミ製小型V8エンジンの製造権利を買い取り、1968年にはP6に搭載(3500)するなどして注目を集めます。このV8エンジンは後に多くのローバー車、レンジローバー車に積まれることとなりました。
面構成はシンプルながらユニークな3ボックススタイルを実現。複雑なアシ回りが生み出すストロークたっぷりの走りもまたP6の魅力です。日本では特にモーターメディアの父ともいうべき故小林彰太郎氏が好んで乗っていた(2000TC)ため、ローバーP6という名前は多くのクルマ好きの心に刻まれています。
西川 淳の、この個体ここに注目! |
1975年式と言いますから正にBLが最も苦しい時代に生産されたP6の3500です。当時の正規輸入元であった新東洋モータースによってほとんど最後に輸入された個体で、その後4人のオーナーを経て現在では走行距離も16万キロを越えるなど元気に現役生活を続けるP6です。
魅力はなんといってもこの内外装カラーコーディネーションではないでしょうか。アーモンドというボディカラーにチョコレートのヴァイナルトップという組み合わせはカタログカラーで、まるでカスタードプリンのよう。インテリアもまた濃淡ブラウンでまとめられており、とてもオシャレな雰囲気です。
本来2ドアオンリーの本サイトながら、日本ではかの小林先生が愛したレアなモデルであることと、この素敵なボディカラーであるがゆえに掲載を推挙したという次第。クラシックカーの味わいというものはファーストオーナーのセンス次第でこれほどまでに変わるものなのだなぁと、改めて考えさせられました。
現オーナーはそもそもローバー75に乗っておられたことと、父上がアメリカンV8を好んで乗っておられたこともあって、知り合いが所有されていたこのローバーP6 3500を譲り受けることに。ローバー+アメリカンV8という“変わり種”ゆえ現オーナーのハートをゆさぶったというわけです。
07年に譲り受けたのち12年間で5万キロほど使われました。右ハンドルの3速オートマチック車ということもあって奥様も気軽にドライブできるため、夫婦で1泊2日のラリーイベントに出場するなど大いに楽しんでこられました。エンジンまわりはほとんどひととおり手がかけられており、現在でも快調に走ります。
撮影現場の周辺を軽くドライブさせていただきましたが、そのフラットでたっぷりとした乗り心地に感動しました。見た目にもそして乗った感じにも嫌なところがなく、このままドライブにでかけろと言われても不安なく出発できそうです。よく整備し乗られてきた個体に特有の安心感がありました。軽く閉まるドアにも感激!75年製というのでもっとひどい造りを想像していました(なにせあの頃のBL社は製造現場もストライキなどで大変でしたから)が、この個体はとてもしっかりとしています。
もちろん16万キロ以上走っているうえ、ごくフツウに乗られてきた個体でもあります。トップは張り替えられており、ボディ両サイドも補修ペイントされています。またボディの小キズや汚れ、内装の色あせやへたりなど、経年劣化というべきマイナスポイントも散見されますが、それも併せてのクラシックモデルというべきでしょう。インテリアはすべてオリジナル。ジャージー生地のシート(カバーしっかり保護されています)がまたすこぶる良い雰囲気を出しています。
このたび別のクラシックカーのフルレストアが完了したとのことで、その資金捻出もあって泣く泣く大事にされてきたP6を手放す決意をされました。小林彰太郎先生も愛したローバーP6。どなたかこの素敵なコーディネーションのサルーンを引き継いでみませんか?
年式 | 1975年 |
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初年度 | 1975年11月 |
排気量 | 3,528cc |
走行距離 | 162,400km |
ミッション | 3AT |
ハンドル | 右 |
カラー | 薄茶×茶 |
シャーシーNo | 45201871E |
エンジンNo | |
車検 | 2020年8月 |
出品地域 | 大阪府 |
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