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CARZY MAG
CZMG08

Back To The Future × De Lorean DMC-12

バック・トゥ・ザ・フューチャー × デロリアン
words / Jun Nishikawa

過去への扉

デロリアンというクルマほど、数奇な運命を辿ったモダンカーはないんじゃないか…。
ハード面だけで言えば、自動車メーカーのトップ(GM 副社長)にまで登り詰めた男が、自分の名を冠した理想のクルマを作りたいといって社を辞してまで挑んだ作品、で、これだけなら昔から、よくあるわけじゃないけれど、まあなかった話でもない。それが、オールステンレスボディにリアエンジン、ガルウィングというスーパーカーライクで個性的なルックスを持っていた=割と人を惹き付けたところから、話はだんだんとややこしくなってゆく。
そもそも話題性には事欠かなかった。スーパーカー的なスペシャリティカーという市場には、いつだって最初のうちは華であふれるもんだ。デロリアンという男、北アイルランドへの工場誘致ではイギリス政府から補助金を得るほど商売上手だったうえ、GM時代に培った政治力を駆使してPRV(プジョー・ルノー・ボルボ)エンジンや、ロータスカーズによる車体設計、そしてスタイリングはジウジアーロのイタルデザインに発注と、その筋の花形オンパレードとし、人のめを惹くクルマを作り上げることに成功した。確かに当初は注文もたくさん舞い込んで、ジョンも“うはうは”だったはずだが・・・。好事魔多し、というか、やっぱりハメラレタのか、当のジョン・ザッカリー・デロリアンが麻薬事件で逮捕(その後無罪放免)されるや、同時並行的に品質不安やイギリスからの資金援助打ち切りといったマイナス面も相まって、会社はいっきに破産へ。アメリカンドリームはいっきに汚れたアイドルへと、その身をやつした、かにみえたのだが…。
クルマそのものが、こんどは映画産業によってソフトに復活を果たす。バック・トゥ・ザ・フューチャーのタイムマシンベースに採用されたからだ。
なるほど、どこのメーカーにも恩に着たり恩を着せたりすることなく、最もタイムマシンベースにふさわしいクルマを選べと言われたら、80年代前半のこと、ボクだってデロリアンに行き着いただろう。冷蔵庫より格段に格好いい!ことによれば、マイケル・J・フォックスやクリストファー・ロイドよりも“適役”だった。
映画の大ヒットとともに、デロリアンにつきまとっていた暗いイメージは一掃されることになる。
そして、DMC-12 は、あの映画に出ていたタイムマシンとして、世界中の認知を、新たな人気を得るに至った。以降、ハード面よりもソフト面で全てが語られる、珍しいクルマになったのだ。
それゆえ、ベースとなったデロリアンそのものに、焦点が当てられることも、今となってはほとんどない。マトモなインプレッション記事だって、これほど認知度のあるモデルにも関わらず、再録されることがほとんどない。あったとしてもきっと誰も読まないだろう。ひょっとすると、せっかくいい“夢”に転じたのだから、そのままにしておけ、という神の思し召しなのかも知れない。
というわけで、ボクが今回、通常の展示車両(こちらは劇中タイムマシンに限りなく似せて作ってある)ではなく、那須PSガレージのヒミツの格納庫に“たまたま”あった、極上のナンバー付きノーマル車両(こんな上モノ見たことない!)に運良く試乗できたからといって、マトモなインプレッションをやっておこう、などとは、まったくもって思わなかった。
やっぱりコイツには、マーティかドクになった気分で乗らなきゃ、ウソだ。過去だろうが未来だろうが現代だろうが、どこへでも行ってみやがれ!なんてノリで乗るのが、デロリアンにはふさわしいと思う。ジョンのクルマ造りへの熱い想いを汲みつつも、やっぱりボクらにとっては、あのタイムマシンのデロリアン・・・。それでいい。
全部開けた姿は、スーパーカーである。ワケもなく嬉しくなってしまう。ただ腹底からの笑いというか、心からの嬉しさがこみあげてくる。ただ、ドアやフードが開いただけなのに…。これは純粋に、男の子の喜びだ。機械がバラバラになるのと同じ種類のものだ。
だから、跳ね上がったドアの下をくぐるときの気分は、んもうサイコー、である。ただそれだけで、心臓がドクドク。まさに主人公気分で、室内に例のタイムサーキットなんか見当たらず、単にハンドルとシフトノブがあるだけでも、なぜか過去へと飛んでいけそうな気分になってくる。
毎日、こんなにハッピーに飛んだ気分になってしまったら、たまらんだろうな。いろんな意味で。仕事にならないかも。だって朝から、ドクの顔を思い出してしまうんだぜ??笑ってしまうじゃないか!
ガツーンと気分はワープで走り出す。ずっと同じ軽四輪が大きさを変えずに前を走っていたとしても、かまいやしない。覇気のないV6のサウンドが背後から聞こえてきたような気もするが、頭のなかではブシューンヒューヒューとクルマではない、何か飛行体の音がしてやまない。乗り心地はふわふわとしているけれども、空を飛んでいると思えば、まあ、こんなものだろうと思う。
デロリアンは気持ちだけで乗る。それが、ジョンの挫折にもめげず、クルマだけがこうして伝説となった運命に報いる、唯一の方法じゃないか。
ドクもこう言っている。
われわれの行く手に、道など必要ない、と。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。