「今からこれに乗ってドライブしようよ」
松ちゃんの提案にボクはもちろん即OK。国会議事堂に行ってミサイル出してみようよ、と言うボクに、それだけは勘弁してよと急に肝っ玉が小さくなる松ちゃんだったが、知り合いのクルマ屋さんに行ってみることで小さな合意を得た。そこの社長さんは、ヴァンキッシュ乗り。いっちょ騙して驚かしてみようという魂胆。
東京は六本木通り。渋谷に近い通り沿いに、高級車販売で有名な「NATSUME」(ナツメ)はある。そこに、ヴァンキッシュもどきのボンドカーを乗り付けた。ためしに“ちょっと知り合いが乗っていて、売りたいと言っている”と店のスタッフに言ってみると…。スタッフは「ヴァンキッシュですよね」と何の疑いもなくクルマを検分しはじめた。それほどに、似ているのだ、第一印象は。
では、実際にヴァンキッシュを愛車にしている社長さんはどうだったか…。「どうしたの、これ、へえ、えーっと…」さすがに、社長、難なく異変に気づいたようだ。「ん、なんだこりゃ」としばしクルマの周囲を見渡している。けれども、何となくおかしい、と首を傾げるばかりで、なかなか確信を持ってどこがどう違うとは言い出さない。ボクがじきじきに持って来たというのもあったのだろう。「違うんだよなあ」などと呟きつつ、ふしぎな顔をしてらっしゃる。
「松ちゃん、例の操作、頼みます」
ウィーンウィーン、キューキュー、カシャンカシャン。ノーズから赤いミサイルと、フードから二丁のマシンガンが飛び出るに至って、社長、腹の底から笑い出した。こりゃ今年一番の大笑いだ、と。
松ちゃんとボクは、もちろん大満足である。この笑いは、イコール、クルマのデキに比例したものに違いないからだ。これで、那須PSガレージでの展示もほとんど成功したようなもの。
ふたりは、それこそボンドになった気分で(車内ではあの映画音楽も流れている)、意気揚々と、帰りも至るところでウィーンキューカシャンさせながら、車庫まで戻ったものだった。(帰りも国会経由を主張したが松ちゃんは没収されてしまうと頑に拒否をした)