CAR CRAZIES WEB MAGAZINE - TOP
CARZY MAG
CZMG10

BATMAN THE DARK KNIGHT × TUMBLER

バットマン × タンブラー
words / Jun Nishikawa

ナ、ナンダ?!コレは?

某月某日。那須PS ガレージの松ちゃんから、いつものように電話がかかってきた。「淳ちゃん、面白いもんに乗せてあげるから那須に来ない?旨いもんもあるよ」。
元来、食い意地の張ったオイラは、最後の“殺し文句”がなかったら、(都内のオフィスならまだしも)那須へは行ってなかったかも知れない。そして、もし、行かなかったなら、このモンスターを実際に見て触っていなければ、映画のクルマに注ぐ松ちゃんの超絶な熱情を芯から理解することもなかっただろうし、もし乗っていなければ、こういう好き勝手なメディアを作って記事にしようなどと思わなかったかも知れない。
言ってみれば、CARZYが誕生するキッカケのひとつになった、オイラにとっては大切な“クルマ”である。たとえ、それが、およそクルマというにはほど遠い、ほとんど化け物じみたクルマであったにしても…。
タンブラー。そう、“ダークナイト”、“ビギンズ”、そして“ライジング”(2012 年公開予定)で、バットマンの強力なパートナーとなるバットモービルだ。それを、松ちゃんは“作った”、というではないか。それも、ほとんど実物と同じサイズで。
那須に行くまでは、といっても所詮レプリカなんだし、なんかテキトーに大きなクルマかトラックをベースに作った、せいぜい張りボテ+αだろうよと、さほど期待していなかったのだ。
実物大のバットモービルと聞いて、思い出すのはホットロッドの化け物みたいなやつばかり。それなら夏のモンテレーやカーメルでも、何度か見かけたことがある。アレはまだ“クルマ”だったから、理解が及んだ。けれども、松ちゃんが言っているのは、タンブラーだぜ?アホくさ。そんなもんのレプリカ、作れるはずないやん…。
それよりもむしろ、大阪のタカオートのタカさんが仕込んでいるという、ウワサの“海老蔵”ちゃんこ鍋の方が気になって気になって仕方なかったのである、ショージキ。
都内から、およそ二時間。暑い夏の盛りで、PSガレージの隅っこにクルマを停めて降り立ってみれば、避暑地でもあるはずの那須もまだ、じわりと汗が滲むほどだった。
「あぢっ、ったくもう…」と、早くも額から吹き出した玉のような汗をハンカチでぬぐって、視線を駐車場の奥をなにげなく向けてみると、そこには俄に信じ難い光景があった。
ホンマモンのタンブラー、やん…。
えぇーっ?うそぉおお。レプリカちゃうやん、これホンマもんちゃうん?周りを圧倒するオーラは、正にホンマモンのソレ。
ソイツは映画顔負け、豪快なサウンドを轟かせていた。けっこうレーシー。車体がかすかに震えているのは、ソイツが動く証拠である。SO it’s the Tumbler。
ほとんどブラックホールに吸い込まれるような気分(吸い込まれたことはない)で近寄ってみると、松ちゃんがSO it’s の隣でニコニコ笑っていた。そして、“淳ちゃん、乗ってみる?”
過去にはF1でも躊躇わずに乗って踏んだったオイラも、さすがにコレはためらう、というかたじろぐ。恐れ多いというか、ただただ圧倒されているわけだ。できれば見なかったことにしたかった、くらいに。
意を決して、乗り込んだ。腰と腹まわりについた余分肉のせいで、上るのにひと苦労だったが、手助けをいただきつつ、コクピットに滑り込む。クルマへの乗り込みは映画とは別物。本物ではないことを理解したが、気分は本物も偽物もなく、ただ体中がコーフンしていた。軍用車のような室内。デジタルメーターがそれっぽい。背後でアメリカンV8が豪烈な不整脈サウンドを響かせている。
後方視界は、当然ながらゼロ。でかいぶん、マイナスだと思って良い。操縦桿のようなステアリングホイールが付いているが、F1かクンタッチ用のようなリアタイヤを前に2輪付けているので、ほとんど曲がろうとはしない。要するに、ある程度、先の様子をシミュレーションしてから、走り出さねばならない、ということ。おまけに、「ブレーキはねえ、ほとんど利かないから注意して…」という松ちゃんの叫びが、かすかに聞こえた。あの〜、帰りたいんですけれど…。
と言っても、一人で乗り降りもできないクルマである。エンジンも既に掛かってしまっている。それなりに見物している人もいるわけで、ここですごすごと降りてしまっては、何とも格好が付かない。クルマに乗ってナンボの仕事をする身としては、格好がつかないどころか、職場放棄、敵前逃亡、不戦敗の汚名をかぶりかねない。
意を決して、シーケンシャルミッションをガツンと一速に入れ、走り出した…、と思ったら、怖くなって停めた。これをあんな速度で走らせるバットマンは、ぜったい気が狂ってるぅ〜〜〜。
死にそうなくらい暑い、を理由に、十メートルの試乗で、とりあえずの面目だけ保ってみた。
それにしても、よくもまあこれだけのものを、精密に造りあげたものだ。レプリカ+αの張りボテだなんて、とんでもない。松ちゃん、こりゃすごいよ!と滝のような汗もそのままに言ってみれば、「淳ちゃん、このプロジェクト、2006年からやっていて、サイトでも報告してたんだよ」、だって。がはは。すみません、ホント、ネットって見ないんだね、オレ。。。
というわけで、このタンブラー、足掛け4年越しのプロジェクトで、どうやら作ったオーストラリアの二人組は、まったく図面もなしでゼロからこれを造りあげたらしい。フレームをゼロから起こして、サスペンションを付けて、V8エンジン+ミッション載っけて、でっかいタイヤを付けて、ちゃんとメタルの外装パネルを組み付けて…。ラジコンだってゼロから作るの、めちゃくちゃ大変だっていうのに、(曲がりなりにも)ちゃんと人が運転できて、可能な限り法規対応までしているだなんて…。その二人、グラントとゴードン、って、ひょっとして立体化の天才??
いやはや、コレを作ろうと考えた者も凄ければ、ソイツ等を信じて作らせたのみならず、細かな指示を根気よく伝えて完成度をあげさせた松ちゃんも凄いや。オレとは趣味が違う(でも松ちゃん、スーパーカーも大好きなんだよねえ〜)けれど、その情熱のかけ方、忍耐力、行動力、こだわりのハンパなさに感動した。たとえこれがタンブラーではなく、ミッキーマウス号だったとしても、オレは感動しただろう(いや、タンブラーがいいや、やっぱり、男の子やもんね)。
タンブラーを入り口に、オレは松ちゃんワールドに、改めて入ってみた。それまであまり興味のなかったクルマたち、マッドマックスやナイトライダーにも、彼の愛情がたっぷり注ぎ込まれているのを知った。テキトーに出来上がったものを金に飽かせて買ったもんじゃない、のだ。
タンブラーに(十メートル)乗って、オレは誓った。この世界観、というか、どんなジャンルでもいい、クルマを誰よりも愛する気持ち、乗り倒す気持ち、作り上げる気持ちを、絶対、ひとつのメディアで表現してやるぞ、と。
CARZY のメインボディは、松ちゃんとタンブラーの関係から生まれたようなものである。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。