さて。今回借り出した190SLも、判で押したようなSLRリクリエイションだ。前後のバンパーを取っ払い、フロントウィンドウをフレームごと外して、小さなスクリーンを付ける。内装をひっぺがして、むき出しスパルタンに。いかにもクラシックレーサーなバケットシートとステアリングが、一転ハードコアになった室内によく似合う。内側のドアノブにいたっては革ひも!ちょっと太めのタイヤを履かせて車高を落とし、サイドに穴を開け、クラシックなレーシングカーラインを引いて…。ルーフなんか、もちろんない。お見事!
このスタイルが「どこまでホンマモンに近いか」なんてカンケーない。ホンマモンに似せることが、このクルマの楽しみ方じゃないからだ。それに、ホンマモンだってレース用だから、いろんな仕様があっただろうしね。それよりも、“乗って楽しみたい”と思わせる抑制の利いた演出が大事。
実際に乗ってみると、これが面白いんだなあ。はっきり言って、パワーフィールなんかはノーマルと変わらない。スポーツカーとしては別に速くもなんともない。けれども、小さなスクリーン、むき出しのインテリア、尻がハマって抜けないタイトなシート、立派なエグゾーストサウンド、そして全体の振動。そういう要素がこつぜん一体となったとき、乗り手は素直に楽しいと思える。
ちなみに、このクルマを駆って桐生のクラシックカーイベントに出場したが、イベント会場からガレーヂまで、大雨に祟られた。クルマごと、ずぶずぶになったけれども、“オレはMだったか?”と自問するほどに、楽しかった。一蓮托生感が、機械との友情を生むというか、えがたきパートナー感覚が芽生えるというか…。クルマを好きでいて良かったなあ、と思える瞬間だ。