2000年のジュネーブショー。英国の老舗ブランド・モーガンの放った問題作がエアロ8でした。モーガン社にとっては64年ぶりとなるオールニューデザインの新型オープン2シータースポーツカー。それだけでもう話題性十分でしたが、そのうえウルトラユニークなスタイリングで登場したために話題沸騰、賛否両論を巻き起こします。
注目を集めたのはその顔つきでした。大きなフロントフェンダーの内側にニュービートルのヘッドライトを左右逆に置き、クロスさせることで夜間の視界を確保するというアイデアで、古典的なデザインとエアロダイナミクスの融合であるとモーガンは胸を張ったのです。
まるでハムスターがひまわりのタネを目一杯口に含んだかのようなユーモラスな顔つき以外は、確かにモダンにリファインされたモーガン伝統のスタイルと言えました。ホワイトアッシュ材をインナーフレームに使うというボディ骨格の製作手法も変わらず、ただしボディパネルにはアルミ合金を使うなど、ここでも伝統と現代の融合をみることができます。
パワートレーンはBMW製V8エンジンで、当初は4.4リットルM62を使いゲトラグ6MTを組み合わせていました。このV8は自然吸気ながら305psを発揮。1200キロの車重には十二分のパフォーマンスと言えるでしょう。
エアロ8はその後シリーズ2〜4へと細かく進化。シリーズ4ではヘッドライトをミニに改め、さらにエンジンも4.8リットルN62へとチェンジされたうえ待望の6ATも選択できるようになります。09年にいったんその幕を閉じましたが、15年にシリーズ5として復活登場。19年にそのモデルライフを終えました。
また10年から15年までは、クーペのエアロマックスやタルガのスーパースポーツなど、輪をかけて個性的な派生モデルが少量生産されていました。
西川淳の、この個体ここに注目! |
現オーナーによれば、最初に日本へ入ってきた4台のうちの1台だそう。つまりは正真正銘のシリーズ1です。しかも前オーナーは購入後3000キロまでオドメーターを延ばしたものの、その後10年間はほとんど乗らず仕舞い。2012年に現オーナーが取得し現在に至っています。
取材時にオドメーターを確認すると3.7万キロでした。聞けば購入後、イベントやツーリングへ長距離ドライブすることも多くあったそう。そのために細やかなメンテナンスはもちろんのこと、乗りやすいようにモディファイされた箇所も多く、オーナーの注いだ愛情がしのばれます。
たとえば外観の写真を見て何か気づくことはありませんか?かなり大きな改造なのですが、まるで違和感がありません。あまりにモーガンらしいのでモディファイされているとはプロでもなかなかそれと気づかない。ヒントはドア。
そう、このエアロ8のドアはソフトトップクローズ時の特徴点な造詣に併せて下方へえぐられています。通常、エアロ8のドアは左右まっすぐ。そのため英国製オープンカーには当然というべきドライビングスタイル=肘をのせて走る、がやりにくいクルマでした。それじゃモーガンらしくないということで、現オーナーはドアをえぐる決断をしたというわけです。
もちろんえぐりっぱなしではありません。インナートリム上部のウッドパネルも専用に作り替えています。パワーウィンドウは外さざるを得なくなりましたが、そのかわりデタッチャブルなウィンドウを二枚、新たにこしらえました。ドアノブに巻き付けられたひも付きのウッドは、モーガン百周年の際に訪れた本社工場でもらってきた端材を活用したもの。またキャビン背後にはオリジナルの革巻ロールバーまで備えています。
さらに幌は純正シートから造り直されているほか、そのときに余った布地を使ってオリジナルのビキニトップまで製作されています。ちょっとした雨ならビキニトップでも十分らしい。暑い季節の日除けとしても有効でしょう。なにしろビキニトップなのですから!
えてしてこの手のドライバーズカーでは助手席に座る人のことなどあまり考えないものですが、現オーナーは奥様とドライブをよくされていたそうで、その際、あったほうが便利だということでウッド製グリップを助手席側に新設されています。こういう実用的なモディファイは、乗って楽しむ派にとって嬉しいかぎり。しかも造り方にこだわりがある。モーガンはモディファイしながら楽しむものだというオーナーの弁には妙に説得力がありました。
モディファイしてまで好んで乗ってこられた個体です。コンクールコンディションではありません。オリジナルでもない。改造箇所は沢山ありますし、細かなキズも少なくありません。けれどもそこには乗って楽しむための工夫やノウハウがいっぱい詰まっている。だからその佇まいが美しい。走行するためのコンディションに優れたクルマは、よく見るとキズが沢山あっても、全体としてびしっと格好よく見えるもの。乗って楽しむことを前提にこの個体を継承したいという次のオーナーさんには、現オーナーからの詳しいインストラクションがもれなく付いてくるでしょう。
取材が終わると、BMW製V8エンジンはいとも簡単に再始動し、太いノートをビルの谷間に響かせながら走りさっていきました。
年式 | 2002年 |
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初年度 | 2002年8月 |
排気量 | 4,370cc |
走行距離 | 37,100km |
ミッション | 6MT |
ハンドル | 右 |
カラー | ライトブルーメタリック |
シャーシーNo | SA9AERO80004G0150 |
エンジンNo | |
車検 | 2021年9月 |
出品地域 | 大阪府 |
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