世界中のクルマ好きが憧れるスポーツカーといえば、ポルシェ911シリーズの名が真っ先に挙がることでしょう。

独特なスタイルに、便利な2+2レイアウト、水平対向６気筒エンジンのリア置き後輪駆動（RR）、そして豊富なバリエーション。1965年のデビュー以来、半世紀以上に渡って基本コンセプトの進化に費やしてきたスポーツカーなど、世界のどこを見渡しても他にない。極めてユニークな存在であることは明らかで、RRながらの苦労を乗り越えて進化した結果、皆が好きなスポーツカーになったと言えます。

911シリーズは、ナロー（901）、930、964（ここまで空冷、以下水冷）、996、997、991、992、と、大きく七世代に分けることが可能で、それぞれに熱狂的なファンが存在します。空冷911モデルの人気は今や世界的なものとなり、964以前の911シリーズは軒並み高騰してしまいました。もっとも、生産台数が多いため今後は調整局面も来ると十分に考えられますので、購入はあせらず慎重に。仕様や程度へのこだわりを持って選んでください。

水冷エンジン以降の911に人気がないかというと、決してそうではありません。最新モデルは今でも飛ぶように売れていますし、数年落ちの魅力的な中古車需要も旺盛です。

なかでも、ひときわ“クルマ運転好き”に支持されている水冷モデルが各世代に存在します。それが今回の主役、GT3と呼ばれるグレードです。

99年に996の高性能版として登場したGT3。その名の由来は、レースシーンにおけるホモロゲーション、GT3規格です。ポルシェの上手かったところは、本来ならレース用ベース車両に付けてもおかしくない名称を、ロードユースの高性能グレードに使ったところ。長年に渡るコンペティションシーンでの活躍イメージを上手に活用した、極めて優れたマーケティングの成果といえるでしょう。

もちろん、GT3そのものの魅力も、人気を後押ししています。“名折れ”にはならなかったのです。996 GT3には当初、360psを発揮する3.6リットルの水平対向自然吸気エンジンが積まれました。この高性能エンジンがミソで、962やGT1といった空冷時代を代表するレーシングカーと同じスプリットタイプ・クランクケース（GT1クランク）を使った、いわゆる“メツガー・エンジン”の血統にあったのです。

快適装備を極力排して軽量であることにこだわった、3ペダルMTのみという思い切りのいい仕様は、瞬く間にスポーツカー好きの心をわしづかみにします。996GT3はその後、380psの後期型へと進化を果たし、GT3RSというホモロゲーション用スペシャルバージョンも生んで、そのセンセーショナルなモデルライフを終えました。

2006年、ベースモデルの911シリーズが996から997へと進化したことに伴って、待望のGT3もフルモデルチェンジを果たします。

空力をいっそう改善し、ついに400馬力の大台を超えて415psとなった997GT3もまた、3ペダルMTのみという硬派な仕様で、ポルシェ好きを大いに喜ばせました。もちろん、この3.6リットル水平対向6気筒自然吸気もメツガー・エンジンの血統にあったのです。

997GT3はその後、3.8リットル（435ps、RS450ps）の後期型へと進化。最終的にはGT3 4.0（500ps）の登場をみて、後継モデルの991GT3へとバトンタッチします。GT1クランクケースを使った最後の高性能911として、991GT3の登場以降もマニアの大いに支持する一台となっています。

コンディションよくキープされている、前期型997GT3のクラブスポーツパッケージです。正規輸入されたディーラー車で、スポーツクロノパッケージも装備されていました。走行距離は５万キロと伸びていますが、サーキット走行はないということ。それだけ乗って操って楽しいモデルだ、ということなのでしょう。

リアウィングはカップカータイプのFRP製に変更されており、フロントリップも同様です。いずれもノーマルパーツが揃っているので、いつでも元に戻すことは可能。むしろ、しばらくはこのまま楽しんで、気分転換を兼ねてオリジナルに戻る、といった楽しみ方がベターかも。

内外装に目立ったマイナスポイントはありません。５万キロ近く走っているということで、細かな擦れやキズなどはありますが、いずれも“これから乗って楽しむ”ぶんには気にならない、というか、むしろ精神的にラクという程度のものでした。

997 GT3の評価は、世界的に高まりつつあります。乗って楽しむなどという贅沢ができるのも今のうちかも知れませんね。