第2次世界大戦中にアメリカ兵が欧州で出会い、戦後に北米に持ち込まれ、多くの人を魅了した英国産の小粋なオープンスポーツカー「MGA」。そのあとを受け継ぎ1962年に登場したのが、その後「スポーツカー入門教科書」と呼ばれるようになった「MGB」です。MGは創業時から既存部品を寄せ集めて作られた安価なスポーツカーを提供していました。MGBもその定義にもれず、MGAからエンジン（排気量は1.6ℓから1.8ℓに拡大）、足回りなどの基本設計は受け継いでいます。ただし、骨格がラダーフレームからモノコックへと変更になったことで、ボディは若干拡大されながらMGAと同等の車重をキープ。しかも、ホイールベースは77㎜短く、トレッドは62㎜広くなるなどスポーツカーとしての資質はより高まっていました。また、トルクフルで扱いやすいエンジン特性だけでなく、カウルトップが低くなり、トランク容量も増えるなど実用性の向上も人気に一役かっていました。

トータルバランスに優れたMGBはMGA以上にアメリカで大ヒットとなり、シリーズ全体で52万台というセールスは、実質の後継者ともいえるマツダ・ロードスターに抜かれるまで「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」としてギネスに登録されていました。ちなみにオープンカーというイメージが強いMGBですが、クローズドハッチのGTも存在します。

1962年から1980年までの長きにわたり生産されたMGBは当然、幾度もマイナーチェンジが行われています。オースチン・ヒーレーの3ℓ直6エンジンを積んだMGC、ローバーの3.5ℓV8を組み込んだMGB/GTなど派生モデルも登場しましたが、バリエーションを大きく分けると1974年前期までのメッキバンパー仕様（MkⅠ、MkⅡ、MkⅢ前期、MkⅢ後期の4バリエーション）と1974年後半からアメリカの安全基準を満たすために装着されたウレタンバンパー仕様（前期、後期）の2タイプに大別されます。市場では後者の人気が低く、スタイルさえ気にならなければ、熟成度、程度ともに高いため、初めてMGBを楽しむには最適ですが、コレクタブルカー目線から言えば、趣味性の高いメッキバンパー仕様をプッシュしたいところです。ライトウエイトスポーツらしい軽快なハンドリング、シンプルな構造で整備しやすく、いまだ補充部品が豊富で安いMGB。現役時代にスポーツカー入門教科書と言われたこの車は「クラシックカー入門教科書」と立場を変え、今なお高い人気を誇っています。

今回紹介させていただく車両は1973年式、メッキバンパー最終型のMkⅢです。ただし、グリルはファーストモデルへのオマージュからかMkⅠ＆Ⅱ時代の縦グリルのフルメッキ仕様に交換されています。スカイブルーよりも空色という表現がピッタリはまる爽やかなボディカラーはノンオリジナル（元色はホワイト）ですが、小型オープンカーのMGBにはよく似合っています。前オーナーはカフェレーサーを目指して少しずつ仕上げていたそうですが、志半ばで売却となってしまったため、現オーナーが可能な限り、オリジナルに戻したそうです。そうした視点で見ると塗り替えられたボディカラー、パナスポーツ製の8スポークホイールはその名残といえるでしょう。

エクステリアはメッキモールにややくすみや耐食、痛みが見られます。ボンネットもFRP製に交換されていますが、現オーナーは純正品を所有しているとのこと。希望される方にはお譲りすることも可能だそうです。幌は交換されていますが、カラーがホワイトだけに、年月が経過すると他の色よりも一層くすみ、汚れが全体を覆っています。磨けばある程度キレイになりそうですが、この部分は交換も視野に入れたほうがよいかもしれません。

インテリアもステアリング、ダッシュボードなどには年式相応のヤレが見受けられます。特に左右で大きさが異なるヘッドレストは前オーナーの自作で、見た目にも手作り感がたっぷり。車検を通すためだけに使っていたらしいのですが、この部分はオリジナル品を探して装着したいところです。内外装のキレイさを求める方には不向きかもしれませんが、ガレージに眠ることなく定期的に走らせていたという機関は、細部にわたる部品交換＆メンテナンスも行き届いており好調で、MGBらしい軽快なハンドリングも失われていません。個人的にはこのままの状態で乗りながら、気になる部分から徐々に仕上げていくスタイルで、気楽にクラシックカーを堪能するというのがお勧めです。

絶対速度が出ていなくても、スポーツカーはこんなに楽しいと教えてくれるMGB。英国スポーツの魅力を味わい尽くすという旧車入門ユーザーにはジャストフィットな1台ではないでしょうか？