308GTシリーズに始まるV8ミドシップ・フェラーリの歴史は、348GTシリーズの代になってひとつの画期を迎えます。それまでドライバーの背後に横置きとされてきたV8エンジンを、ついに縦置きへと変更したのです。これにより、パワートレーンの大幅な性能向上を果たせることになりました。
フェラーリでは、2世代をひとまとめにして完全進化するという手法を採っています。たとえば308と328は姉妹と言っていい関係ですし、直近では458と488がそういう関係です。そして、このF355もまた348の進化版でした。
F355のデビューは1994年のこと。車名の数字は、3.5リットルの5バルブを意味するという、これまでの法則とはちょっと違っていました(308、328、348はいずれも最初の二桁が排気量で、最後の8は気筒数を表していた)。
それだけこの新型車にマラネッロが力を入れていたということでしょう。複雑な5バルブシステムそのものはこの世代で終わりを告げますが、現代に連なるモダンフェラーリ興隆の基礎を、このF355シリーズが築いたといっても過言ではありません。
クーペのベルリネッタとタルガトップのGTSに加えて、跳ね馬V8ミドシリーズでは初となったフルオープンのスパイダー(ソフトトップ)がラインナップされたのもニュースでした。
なによりフェラーリにとっては97年に、F1マチック=AT免許”でも運転できる2ペダルセミAT(セミMTと言った方が正確だが)仕様が加わったことが重大な転機となりました。現代に連なる“マラネッロ製ロードカーの黄金時代を築くきっかけとなったのです。トルコン付きのオートマチックミッションではない、スポーツドライビングを楽しめるシングルクラッチ2ペダルトランスミッションの登場により、生産台数を大幅に飛躍させることになったのです。
F355シリーズの魅力は、今となっては十分にコンパクトなボディサイズと、フィオラバンティ時代のピニンファリーナラインを引き継いだデザイン、最後のリトラクタブルライトの跳ね馬、などを挙げることができるでしょう。
最高出力は380PS。今となってはスーパーカーとして、とても平和な数字です。けれども心置きなくフルスロットルを楽しめるという意味では、これくらいのスペックが限界であることもまた事実。ほどよいパッケージングとエンジンパワー、そして唸りをあげる自然吸気V8エンジンの官能性は、この先ますます貴重となり、価値をもち続けることになるでしょう。
西川淳の、この個体ここに注目! |
最後期型XRシャシーのF355 F1マチック・ベルリネッタ、正規輸入車です。
この時代はまだフェラーリといえば赤(ロッソ・コルサ)を選ぶことが一般的でした。それゆえ、F355といえば赤のイメージが強い。実際、これ以降に登場するどのフェラーリよりも赤が似合っていると思います。赤ボディに黒インテリアを組み合わせること(=赤黒フェラーリ)もまた当時の定番でした。
走行距離は5.5万キロ。この年代のF355としては、実はごくフツウのオドでしょう(巻き戻されている個体も多いと聞きます)。全体的にノーマルの雰囲気をよく保っていますが、“走り”へのこだわりも散見される個体です。たとえば、チュービ製マニフォールドにMSレーシング製のエンドマフラーを組み合わせたり、クワンタムの車高長アシを入れてあったり。もちろん、ノーマルのマフラーやアシも付属しています。4.7万キロ時にタイミングベルトとウォーターポンプを交換したそうです。
塗装の状態は年式相応といったところでしょうか。走ってきた個体だけあって、細かなチッピングも多いですし、塗装の剥げもところどころに見受けられます。運転席のサイドサポートやサイドシル、パドルなどの状態を見れば、この個体が前オーナーのもとでいかに元気に走ってきたことがよく分かりますよね。もっとも、このあたりは仕上げてから納車も可能ということでした(別途有償にて相談とのこと)。
実は、筆者は縁合って、この個体を200キロほどドライブする機会に恵まれました。5万キロ超えのF355ですし、いろいろ気にしながらのドライブになるのかなと思いきや、何の問題もなく快調に走り切りました。高速道路でも直進性が乱れることはありませんでしたし、ワインディングロードでは軽快のひとこと。クワンタムのおかげでしょうか、ちょっとした凹凸もしなやかにこなしてくれました。
パワーフィールに気になる点もなく、甲高いエグゾーストノートは自然吸気V8ならでは。さすがにF1マチックの変速は現代のレベルからすると“遅い”のですが、その呼吸を合わせることもまた、3ペダルMTと似て運転の楽しみのひとつ、かも知れません。
年式 | 1999年 |
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初年度 | 1998年2月 |
排気量 | 3,495cc |
走行距離 | 55,000km |
ミッション | 6AT |
ハンドル | 左 |
カラー | 赤 |
シャーシーNo | ZFFXR41JPN0111089 |
エンジンNo | |
車検 | 2019(H31)年4月 |
出品地域 | 宮崎県 |
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