2010年にタイプ939のスパイダーが生産中止になって、そろそろ10年。それ以降は4Cスパイダーが生まれただけで、アルファロメオのラインナップにオープン・スポーツカーはありません。4Cは立ち位置的にちょっと特殊なモデルですから、普通の人が普通に乗れるアルファ・スパイダーは途切れたまま、といっていいでしょう。第2世代のタイプ916と第3世代のタイプ939の間も11年ほど空いていますが、2019年末現在、アルファロメオが投資家向けに発表している事業計画の中には“スパイダー”の文字が影も形も見えません。1955年登場のジュリエッタ・スパイダーの時代から、一時的に途切れることはあったにせよ、上流階級や成功者以外にもドルチェ・ヴィータ(=甘い生活)を感じさせてくれるオープンスポーツカーを常に送り出していたのがアルファロメオ。それを考えると寂しい気持ちになってきます。
アルファロメオ“スパイダー”と耳にして思い浮かべるモデルは世代によってまちまちかも知れませんが、ある一定以上の年齢層の方の中には、1966年から1993年まで進化や変化を繰り返しながら生き続けた第1世代に、一度くらいは惹かれたことがあったことでしょう。
第1世代のアルファ・スパイダーは、大きく4つに分けられます。
最初のシリーズ1は、1966年から1969年までのモデル。ダスティン・ホフマン主演の映画『卒業』でアルファロメオ・スパイダーの存在を世界に知らしめた、“デュエット(またはラウンドテール/ボートテール)”と呼ばれるモデル。コクピット後方からリアエンドに向かってなだらかに下がっていく丸みを帯びたデザインの支持者は今も多いです。
シリーズ2は、1970年から1983年までの“コーダトロンカ(またはカムテール)”と呼ばれるモデル。丸みを帯びていたテールがスパッと直線的に切り落とされたようなコーダトロンカ型となり、フロントウインドーを寝かせ、サイドウインドーの上方に向けての絞り込みも大きくなり、サイドやリアから見たときの印象が大きく変わりました。
シリーズ3は、1983年から1990年までの“アエロディナミカ(またはダックテール)”と呼ばれるモデル。前後のバンパーが衝撃吸収型の大きなモノとなり、ウレタン製のリアスポイラーが与えられています。年式やグレードによりますが、エアダム風のフロントエプロンやサイドスカートなどエアロパーツを備えたモデルもありました。
そして最後のシリーズ4は、1990年から1993年の“ウルティマ(またはラスト)”と呼ばれるモデル。ノーズとテールがスムーズなデザインへと改められてモダンな印象を持つほか、エンジンの全車インジェクション化、パワーステアリングの標準装備、3速ATの追加など、近代化(?)が進められています。
こちらで御紹介するのは、シリーズ3のアエロディナミカ。バッティスタ・“ピニン”ファリーナ自身が最後に手掛けたといわれるデュエット時代のスタイリングとはだいぶ印象が変わっていることもあって、原理主義的なアルフィスタからは“厚化粧”と揶揄されたりすることもあります。が、ちょうどシリーズ3の時代はバブル景気を下敷きに盛り上がりはじめた輸入車ブームで、それまでマニアのみが耽溺していたアルファロメオも、つられてスポットを浴びるようになりました。スパイダーをちゃんと目にしたのはこのタイプが初めていう人も多く、中には“美しさはデュエットに譲るけどこの型のスタイリングが一番好き”という人も存在します。
本国には2リッターと1.6リッターがありましたが、日本にもたらされたのはほとんどが2リッター。インポーターがコロコロと変わって安定しなかった時期で、並行輸入のクルマも少なくなかったことから、日本市場では欧州向けのツインキャブレター仕様と北米向けのインジェクション仕様の双方が混在していました。どちらも充分活発に走ってくれますが、スロットルレスポンスに優れていて佳き時代のアルファの匂いが漂うキャブレター仕様、気遣いらしい気遣いは必要なくてドライバビリティにも優れるインジェクション仕様という違いはあって、それは好みの分かれるところといえるでしょう。
クラシカルでスレンダーな美しいスタイリング、フレキシブルなトルク特性が支える乗りやすさと望外の速さ、見た目から想像するより遙かに優れたハンドリング、1960〜1970年代のテイストがちょうどいいくらいに残っている……などなど、シリーズ3ならではの魅力的なバランスというものも、実は存在します。シリーズ1や2の根強い人気、シリーズ4のモダンな姿と扱いやすさ。その影に隠れてしまってるようなところは確かになきにしもあらずなのですが、その辺りを見直す人が増えてきているようで、近年では相場もじわじわと上がり続けているのです。
嶋田智之の、この個体ここに注目! |
今回の個体は、1987年式のキャブレター仕様。シリーズ3の中期から後期にあたる頃に生産されたモデルです。御覧のとおり、フルノーマル。メーターの積算計は8万3000kmを越えたところでつい最近になって動きを止めてしまったそうですが、現在のオーナーさんのところに来てから、5年間で5000kmほどしか走っていないそうです。
この個体のいいところは、基本的な部分のコンディションが良好といえること。いや、もちろん上記の積算計以外にも、フロントバンパーに傷があり、右のサイドシルにも飛び石と思われる軽いダメージがあり、ホイールもフロントの左右とリアの左にはガリ傷が少々あり、テールランプ左右の経年変化に由来する割れもあり、ダッシュボードにお約束のクラックが一箇所あり……と、細かなマイナスポイントが多少はあります。が、それらは改善するのにさほどの労苦を要さないか、あるいは目立たないモノばかり。
むしろ注目すべきなのは、2019年6月にリビルド済みエンジンに載せ替えて100km程度しか走らせていない、同時にバッテリーも新品に替えている、3年前にセルモーターも交換済み、4年前に幌を純正の新品に交換済み、コンチネンタルのタイヤも2年ほど前に交換して山も9割以上残っていること……と色々と手が入っているにも関わらず、ここ数年は調子を保つために走らせたりエンジンをかけたりする程度、ということでしょう。とりわけ機関は抜群といえるほどの好調さを見せていましたし、ボディの基本的なコンディションもかなり良好、レザーシートにも擦れはなく内装も全体的に綺麗な状態、クルマの姿勢にもダメなクルマにありがちなバランスのおかしなところは全くなくて極めて良好、でした。
まだこれからといえる調子のよさを活かして、この時代のスパイダー特有の洗練された乗り味と古典的なアルファらしい熱さの絶妙なバランスを堪能するのもいいですし、細かなところに手を入れることで仕上げ直し、これからクラシック・アルファロメオとしての価値がますます高まっていくのに備えるのもいいですし、どちらも次のオーナーさん次第。どちらにも無理なく対応できる個体だと思います。
上手に説明することはできないのですが、アルファロメオ・スパイダーは常にロマンティシズムを感じさせくれる希有なクルマです。きっとあなた自身のドルチェ・ヴィータを、巧みに演出してくれることでしょう。
年式 | 1987年 |
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初年度 | 1987年11月 |
排気量 | 1,962cc |
走行距離 | |
ミッション | 5MT |
ハンドル | 左 |
カラー | レッド |
シャーシーNo | ZAR11538002491196 |
エンジンNo | |
車検 | 2020年11月 |
出品地域 | 東京都 |
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