誤解を恐れずにいうなら、メルセデス・ベンツは世界で最も上質な“実用車”を世に送り出し続けてきたブランドです。それが超弩級のスポーツカーを当たり前のようにラインナップさせるようになったのは、2003年にデビューしたSLRマクラーレンからでした。が、歴史を振り返ってみると、第2時世界大戦前にも後にも、眼を見張るような高性能スポーツカーを何台も生み出してきています。その中の最もよく知られているモデルは、おそらく1954年に発表された300SLでしょう。スポーツカー・レース用にチューンナップされたエンジンをさらに強化して長いノーズの下に埋め込んだそのクルマは、優美なシルエットに天へ向かって羽ばたくようなガルウイング式のドアを備え、当時の世界中のスポーツカー好きを唸らせたものだったそうです。
そして自動車の歴史に名前を刻んでいるその稀代の名車へオマージュを捧げるかようなクルマが、2009年に誕生しました。SLS AMG、です。
このクルマは、メルセデス・ベンツのモータースポーツ部門であり、ロードカーの中のハイパフォーマンス・ヴァージョンの開発部門であるAMGが、デザインから完成までの全てを手掛けた記念すべき独自開発モデルの第1号。ポジショニングとしてはSLRマクラーレンの後継車と見ることもできますが、あまりにも高価に過ぎたSLRに対して、SLSは骨格をカーボン・モノコックではなくオール・アルミのスペースフレームにするなどコストを抑え、この種のクルマとしての常識的な(?)価格帯に収める努力がなされています。日本国内での導入時の価格が2490万円からと聞いて、逆の意味で驚いた人も多かったのではないでしょうか?
スペースフレームにマウントされるサスペンションは、4輪の全てがダブルウィッシュボーン。フロント・ミドシップにレイアウトされるエンジンは、6.2リッターV8DOHCで571ps /6800rpmに650Nm/4750rpm。トランスミッションはトランスアクスル式に配置される7速DCTと、その並びだけを見るなら、メカニズム的に飛び道具のようなものの見当たらない比較的コンベンショナルな作りに思えるかも知れません。が、これがAMG独自開発の1発目だということを忘れてはいけません。
フレームはオーストリアのマグナ・シュタイアーに作らせた、単体重量241kgという軽量なもの。サスペンションはアーム類がアルミで作られていて、これももちろん軽量化のため。エンジンは63AMG系に積まれるM156型をベースにおよそ120箇所に専用チューニングが施されたM159型で、ドライでの単体重量は205kg。トランスミッションは新開発のゲトラグ製で、変速パターンを4つのモードに切り替えられる電子制御式。さらにプロペラシャフトはカーボン製、シートはバックレストにマグネシウム素材を使用などなど、軽さと強さに徹底的にこだわった作りとなっていて、車重は全長4.6m越え、全幅1.9m越えというサイズのオーバー6リッターのV8を積むモデルにしては、軽量な部類に入る1620kg。前後重量配分はフロント・エンジン+後輪駆動のクルマにとっての理想的なバランスといえる、47対53。いや、とても全てを並べることはできません。レース屋さんの開発能力、侮るべからずなのです。
結果、0-100km/h加速は3.8秒、最高速度は317km/hと、とりわけ加速性能に関してはSLRマクラーレンと同等という強烈なパフォーマンスを得ることに成功しています。が、それもさることながら、驚くべきはその運動性能。恐ろしく緻密なムービング・パーツが恐ろしく正確に、しかも恐ろしく素早く作動してるかのようなエンジン・フィールと、それが生み出す強烈なアウトプットの感動をゆっくり味わう間もなく、2m近くある長いノーズがスパッと難なくインを刺す回頭感、全く不自然さのない姿勢変化、そして綺麗に立ち上がらせてくれる有効なトラクション。そのコーナリング・パフォーマンスから、SLS AMGがGTカーというよりピュア・スポーツというべきクルマであることが伝わってきます。
実はSLS AMG、当初から古の300SLの現代版を狙ったわけじゃなく、AMGがパッケージングまで作り上げた後、プロファイルが示す方向が300SLに似てるということから、ガルウイング・ドアの実装などがスタートしたのだとか。
はじめにオマージュありきではなく、目指したのはあくまでもピュアなスーパー・スポーツカー。時を超えて偶然にも同じベクトルのクルマが誕生した、ということなのでしょうね。
嶋田智之の、この個体ここに注目! |
まるで新車のようなコンディションのクルマを前にすると、“新車みたい”という言葉しか浮かんでこなくて、モノ書きとしての語彙力のなさを痛感させられるものなのですね。
まぁでも自己弁護するわけじゃありませんが、これは無理もないよな、と思います。この個体は2010年式ですが、走行距離は驚くべきことに417km。1オーナーで、コレクターであったそのオーナーはほとんど点検のために正規ディーラーに預ける往復のときぐらいしか走らせてなかったそうなのです。その417という数字を418や419にするのがしのびなく、撮影は保管されていたガレージの中ですませようと決心したほどでした。
くどいようですが、とにかく新車のようなコンディション。目についた傷らしい傷はといえば、ドライバーズ・シート側の幅広いサイド・シルの上のカーボン製ステップ・カバーにひとつだけあった、おそらく乗り込むときに靴の踵が当たったと思しき擦り傷のみ。這いつくばって前後左右から下回りも覗いてみましたが、見事に綺麗なものでした。
オリジナルと異なるのは、レーダー探知機が後付けされてることだけ。もちろん撤去するのは簡単です。定期的に点検を受けていた記録簿はあり、スペアキーと取扱説明書はありませんが、別途用意することは可能だそうです。車検は2019年の12月まで有効です。
ちなみにこのクルマは、高価だったオプションをたくさん身につけています。まずボディ・カラーはアルビウム・シルバーで、それが150万円。フロント19インチ+リア20インチの鍛造ホイールやカーボン・セラミック・ブレーキ、強化サスペンションなどで構成されるAMGパフォーマンス・パッケージ、175万円。センターコンソール・トリムやドア・トリム、ステップ・カバー、シート・バック&シート・フレーム、ドア・ミラーなどがカーボン製となるAMGフル・カーボン・パッケージ、165万円。フル・レザー仕様、36万円。……などなど。それらを新車時の価格にプラスしてみると、今回の売り値にかなり近い数字になります。
一般的なSLS AMGのユーストカーの相場からすれば高額に感じられるかも知れませんが、この走行距離、このコンディションのSLS AMGが今後そう出てくるとは思えません。コレクションとしても、もちろんステアリングを握ってピュア・スポーツカーとしてのテイストを満喫するのにも、どちらにも相応しい1台であることは間違いないでしょう。
年式 | 2010年 |
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初年度 | 2010年12月 |
排気量 | 6,208cc |
走行距離 | 417km |
ミッション | 7DTC |
ハンドル | 左 |
カラー | シルバー |
シャーシーNo | WDD1973771A003511 |
エンジンNo | |
車検 | 2019年(R1)12月 |
出品地域 | 三重県 |
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