EVシティコミューターからF1まで。かつてはトラックも作っていた(現在のルノー・トラックスはボルボ傘下)から、ルノーは欧州を代表する四輪車の総合デパート的メーカーであることは間違いありません。
それゆえ大衆ブランドというイメージが強いブランドなわけですが、昔からモータースポーツ活動には力を入れていて、ゴルディーニやアルピーヌといったフランスの走り屋ブランドを買取り、それをマーケティングに生かしながら、アマチュアから頂点のF1や耐久レースまでありとあらゆるモータースポーツカテゴリーに車両を提供し続けてきました。
なかでもワンメイクレース活動は古くからルノーの得意とするところです。60年代から長らく市販車両をレース用に改造して使ってきましたが、90年代になってついに、モータースポーツ活動を統括するルノースポールという組織にてワンメイクレース用の専用マシンを開発することになったのです。
折しもアルピーヌA610というグループのフラッグシップモデルというべきスポーツカーの生産が終わろうとしていました。A110から続いたRRスポーツカーの系譜が終わろうとしていたのです。そこでルノーはワンメイク用に開発したレーシングカーをベースに市販モデルへの転用を企画しました。それが、このルノースポール・スピダーです。
それゆえ95年に登場したスピダーのロードバージョンには最低限の保安装備が施されているのみで、当初はウィンドウの類すらない、全くもってスパルタンなモデルとして注目を浴びます。ちょっと気弱な人なら乗りこむことさえ躊躇われたかもしれません。
フォーミュラーカーやレーシングカーの開発経験も豊富なルノースポールゆえ、その作りはマニアックであると同時に、コストも巧みに抑えられていました。
骨格はアルミニウム溶接とし、そこに個性的なデザインのFRP製ボディカウルをかぶせ、レーシングカーのようなプッシュロッド式サスペンションシステムを採用するなど、ルノースポールならではというアイデアが散りばめられていました。
その一方で、リアミドにはクリオ・ウィリアムズ用の4気筒エンジンを搭載し、ブレーキシステムやメーターパネル、スイッチ類、ワンアームワイパー、ターンシグナル、ミラー、リアランプなどは既存の製品を流用するなど、個性の演出とコストの削減を見事に両立していたのです。
装備類は必要最小限としています。前述したように当初は窓の類も一切ありませんでしたが、後にフロントウィンドウと小さなサイドウィンドウを付加します。前者(なしなし)をマニアはソートバン、後者をパラブリーズと呼んで区別するようになりました。
パラブリーズとなっても、エアコンやオーディオ、パワステ、ブレーキブースター、ABSといった乗用車にはあるはずの装備が省かれています。公道を走ることを辛うじて許されたレーシングカーだった、というわけです。
新車当時、筆者も何度かスピダーを試乗した経験があります。記憶に残っているのは踏み切れるエンジン性能とロールのないシャシーの動き、そして他に類を見ない安定した意のまま操縦感です。奇しくも同じ時期に誕生し、同じくアルミボディを持つトミーカイラZZやロータスエリーゼとともに、ドライビングファンをピュアに味わうことのできる90年代のスポーツカー代表選手と言えるでしょう。
これは余談ですが、ルノースポールはその後もクリオやメガーヌといった大衆モデルをベースにマニア垂涎のスポーツモデルを輩出し続けましたが、2021年にアルピーヌへと統合されています。F1活動もアルピーヌブランドの名の元に継続されることになりました。
アルピーヌからルノースポール、そして再びアルピーヌへ。そう考えるとこのスピダーはルノースポール唯一のオリジナルモデルとして歴史的な存在と言っても過言ではありません。
西川淳の、この個体ここに注目! |
98年式のパラブリーズ、珍しいシルバーカラーで走行距離の大変少ない個体です。フランスモータースによって100台のみ正規輸入されたうちの一台。スポーツカー経験も豊富な現オーナーはおよそ一年前に入手され、その爽快なドライブフィールを楽しんでおられましたが、保有台数を少し減らす決意をされました。
見る限り、経年劣化(FRPボディのペイント汗)やスポーツモデルに特有の使用感(飛び石など)は所々に散見されるものの、スパルタンなスポーツカーとしてはコンディションも上々な部類です。そもそもコンクール・エレガンスに出場するようなモデルではありません。ルーフもない硬派なスポーツカーであり、そもそも生産台数も少ないためプラスチックのクォリティなどはさほど高くないので、経年変化以上の変化はほとんどないと言っていいでしょう。
ヘッドライトカバーもガラス製で、プレキシ製のような黄ばみもなく、フロントスクリーン同様に美しい状態を保っています。ホイールにも跳ね石キズこそありますが見苦しいガリキズは皆無。右ドアや左サイドシルなどに塗装の浮きが見受けられることが気になるといえば気になりますが、むしろ交換歴のない証でもあるわけで、この手のスポーツカーとしては安心材料の一つかもしれません。
エグゾーストマニフォールドとエンドパイプはSIFO製に交換されていますが、ノーマルパーツも残っています。そのほか、非純正箇所はシートのクッションのみ。背の高いオーナーに合わせて着座位置が低くなるように改良されています。
極めて良好なコンディションを保った伝説のスポーツカー。純粋に走りを楽しむという意味では、クラシックカーよりもずっとモダンで扱いやすい90年代の貴重なリアルスポーツカーは、ドライビングファンが失われつつある今、再評価されるべきカテゴリーだと思います。
年式 | 1998年 |
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初年度 | 1998年10月 |
排気量 | 1,990cc |
走行距離 | 12,000km |
ミッション | 5MT |
ハンドル | 左 |
カラー | シルバー |
シャーシーNo | VMKAF0HP518102956 |
エンジンNo | |
車検 | 2023年9月 |
出品地域 | 兵庫県 |
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